• 研究紹介 

 ・6NC連携のJH共同研究(2022-2024年度) 
  https://www.japanhealth.jp/project/research/2022/shindou.html

  ・論文解説

 

  • 研究内容

私たちは多様なリン脂質の生体機能解明を試み、新たな疾患治療方法確立を目指しています。
・リン脂質生合成酵素であるLPLAT(lysophospholipid acyltransferase)の研究
・リン脂質制御に関わる遺伝子の研究
・ヒト疾患やマウスの包括的脂質分析による生体内脂質機能の研究 

リン脂質とは?
私たちの細胞が持つ生体膜の主成分にグリセロリン脂質(以下、リン脂質)があります。リン脂質はグリセロール骨格のsn-1位とsn-2位に脂肪酸、sn-3位に極性基が結合しています。極性基は7種あり、どの極性基が結合するかでリン脂質の名前が決まります。また、2つの脂肪酸も炭素数や二重結合の数が様々で、結合様式も3種類(エステル、エーテル、ビニル結合)あります。これらの組み合わせから、私たちの体には1000-1500分子種程度のリン脂質が存在します(図1)。細胞や組織は特徴的なリン脂質組成を持ち、それぞれの生体機能に影響していると考えられます。細胞の隔壁(細胞膜)としてだけでなく、メディエーター(血小板活性化因子PAFなど)や膜タンパク質制御などにも影響します。細胞の外では呼吸に必須な肺サーファクタントやリポタンパク質の成分としても働きます。オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸の役割など、分子レベルでの機能解明を目指しています。

リン脂質の生合成
解糖系で得られたグリセロール3リン酸(G3P)を起点としてG3P acyltransferase (GPAT)とlysophospholipid acyltransferase (LPLAT)によって各1本の脂肪酸が転移します(図2)。ここでリン脂質であるホスファチジン酸(PA)ができます。PAはトリアシルグリセロールにもなりますが、他のリン脂質にも変換されます。ここでは脂肪酸は交換されません。続いて、ホスホリパーゼA1/2によってリゾリン脂質ができ、再びLPLATによってリン脂質が再構築されます(図3)。現在、4種のGPATと14種のLPLATが知られており、基質特異性や発現組織などの違いから、それぞれが特徴的なリン脂質合成に関わっています。各LPLATの名称は多種あり混乱を招いています。命名法を提案していますので、別途まとめます。

 

私たちの研究室の強み
私たちは14種LPLATのうち、8種を同定しています。基質の再発見も含まれます。これらのLPLATの活性や発現調節など生化学的な解析も行っています。さらに、LPLAT欠損マウスを作成し生体機能解析も行っています。一部ご紹介しますと、LPLAT8 (LPCAT1)欠損マウスはパルミチン酸含有リン脂質が減少し、呼吸機能異常(肺サーファクタントの質変動)や視覚機能異常(視細胞の細胞死誘導)、LPLAT12(LPCAT3)欠損マウスはアラキドン酸含有リン脂質減少に伴い中性脂質輸送異常、リポタンパク質形成不全、LPLAT3(LPAAT3, AGPAT3)欠損マウスはドコサヘキサエン酸(DHA)含有リン脂質減少による視覚機能異常や雄性生殖不妊です。LPLAT9 (LPCAT2)はリン脂質メディエーターである血小板活性化因子(PAF)を作る酵素で、欠損マウスは神経障害性疼痛が軽減していました。このようにLPLATは生体内でリン脂質を生合成し、生体機能に関わることが分かりつつあります。私たちは全LPLATを対象にin vitroからin vivoまでの研究を行っています。

ヒト検体と阻害剤探索
ヒト疾患検体の脂質分析も行っています。脂質代謝物の視点から、生体機能や疾患の理解を進めたいと思っています。また、マウスのモデル実験だけでなく、ヒト疾患に関与する脂質の機能解析に重要です。疾患に関わるリン脂質や生合成酵素(LPLAT)が見つかると、その阻害剤や活性化剤の探索を行い、創薬も目指しています。アッセイ系は確立済みです。直接的な社会貢献になる研究です。

研究室で行えること
上述のように研究所では動物室のサポートが充実しており、多種マウスの解析を大学などの他機関よりも行いやすい環境です。さらに、私たちは質量分析計を複数台(LCMS3台、GCMS1台、GC1台)保有しており、包括的にリン脂質、脂肪酸代謝物(エイコサノイド、ドコサノイド)、脂肪酸を分析できます。また、細胞内脂質の可視化を試みているラマン顕微鏡、リン脂質物性を評価する原子間力顕微鏡、粒子計測系(ゼータサイザー)もあります。脂質関連以外では、細胞分取装置(Sony Cell Sorter SH800S)、蛍光顕微鏡、さらに共通機器実験室の機器も豊富です。恵まれた環境を活かして、リン脂質研究を行っています。